# 女性議員と出生率 -関東1都3県の市区町村データを用いた分析 - ③

分析結果

分析結果は図3にまとめられている。(1)は固定効果モデルではなく単なるOLS推定である。(2),(3),(4)は固定効果モデルを用いたパネルデータ分析である。(2)は女性政治家の割合のみで分析した場合で(3)は女性の結婚数のみで分析した場合である。(4)は女性政治家の割合と女性の結婚数を変数に入れて分析している。

全体の傾向を確かめてみると、(1)のOLS推定では女性政治家の割合は統計的に有意な関係はないが、女性の結婚者数は0.023と小さいながらも正に推定され、統計的に有意であるという結果になった。しかし、固定効果をいれたパネルデータ分析の結果では(2)の結果より女性政治家の割合は-0.058と負の係数で統計的にも有意であることが示されている。また(3)では女性の結婚者数は-0.017と負の結果となり、(1)のOLS推定では統計的に有意であったが(3)では有意ではないことがわかった。(4)では女性政治家の割合は統計的には有意ではあるが負であり、女性の結婚者数も負という結果になった。固定効果をコントロールすると女性政治家の割合は統計的に有意であることが示される一方で、女性の結婚者数は有意ではなくなるという真逆の結果が示された。OLS推定とパネルデータ分析で結果が真逆になってしまうのは固定効果によって女性政治家の割合と出生率には統計的な関係があることがわかる。しかしこの結果は仮説と反している。女性政治家が増えれば、子育て支援政策が充実し出生率が増えるのではないかという仮説は固定効果をコントロールすると女性の政治家割合は出生率を増やすのではなく、むしろ0.057下げるという結果になった。なぜこのような結果になったのだろうか。女性議員は必ずしも子育て支援政策を充実させるわけではなく、実際には議員の性別関係なくその他の要素が出生率上昇に関わっているのではないだろうか。それならば、出生数が増えている自治体の議会の割合を見れば、政治家の性別は出生率には関係ないことが考察される。次の項では出生数が上昇している自治体の議会男女比を見てみる。

 

議会の男女比は関係あるのか

計量分析を行い、その結果を踏まえて現実ではどうなっているのかを確かめる。女性議員が増えると出生率は小さいながらも負の値を取ることがわかった。そこで出生率と女性議員の割合は関係がないと考える。もし女性議員の割合が高くなければ、他の要因、例えば子育て支援の充実さや保育園の定員数にゆとりがあるなどが出生率に影響している、男性が中心の議会でも出生率向上につながるような取り組みはできるということだ。今回、データの中から探すときに出生率の高さに着目したのは特に田舎の地方議会はそもそも議員人数が非常に少なく、1人増えると割合も大きく変わる。よって出生率が高い自治体は女性議員が多いのかを確認する。そこで今回の研究で使用した各自治体の5年間のデータを見てみると、千葉県流山市、東京都中央区、港区、日野市、稲城市、神奈川県大和市、海老名市は各5年間の出生率平均が高い自治体であることがわかった。全自治体の平均が1.24に対してここで挙げた自治体はそれを大きく上回っていることがわかる。そして女性議員の割合は全自治体平均が21.63であるのに対して、神奈川県大和市を除いて平均を上回っていることがわかる。

これだけを見ると女性議員の割合と出生率が無関係であると言えないのではないだろうか。しかし上記で挙げた自治体は比較的都心部であるため女性議員が田舎と比べると当選しやすい可能性もある。そのため女性議員と出生率に正の相関関係はあってもそれは女性議員と出生率に因果関係はないということができる。

おわりに

この研究においては、女性議員の増加は出生数を増やす直接的な要因にならないということがわかった。この研究によって女性議員を増やすことが出生率を上げることにつながるという期待があったが、そのような結果を得ることはできなかった。しかしこの研究には課題が多い。第一に入れ込むことができなかった変数が多く、その他の影響をコントロールできなかった。先行研究を見てみると、保育所、幼稚園の数や人口密度、女性の就業率などを変数にして研究をおこなっている。そのほかにも市区町村間での人口の違いを考慮して重みをつけて分析していればまた結果は異なっていたのではないだろうか。また2015年から2019年までという比較的新しいデータを使ったため、データが一つにまとめられておらず形式が異なる一つ一つの県の統計データを5年間分まとめ上げるのは非常に困難な作業であった。地方議会における女性議員の割合に関しても、内閣府男女共同参画局で公開されているデータをエクセルシートに入れ込んでいく作業には膨大な時間を要すことになり、他の変数を準備することができなかった。今後の課題としては、人口密度や、都会か田舎かといった地理的要素、就業率、転出入、さらには児童託児所の数など子育てに必要な環境がどれほど整備されているかといった要素ではなく、例えば、住民の幸福度、住みやすさといった主観的なデータを用いた分析や、今回は集めることができなかったのだが地域によっては中学卒業まで医療費が無償の自治体もあれば、高校卒業するまで医療費が無料の自治体もあることがわかった。このような自治体独自の子育て支援政策が出生率増加にどのくらい寄与しているのかを検証することが、日本の少子化問題を解決する大きな一歩になるのではないだろうか。

 

参考資料

内閣府 男女参画参画白書 平成26年度版

内閣府「選択する未来」第3章人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題

参考文献

朝井友紀子,神林龍,山口慎太郎「保育所整備と母親の就業率」『経済分析』第191号(2016)

足立泰美,中里透「出生率の決定要因:都道府県別データによる分析」『日本経済研究』(2017)

阿部一知,原田泰「子育て支援策の出生率に与える影響 : 市区町村データの分析」

                        『会計検研究』  第38号(2008)

加藤久夫「市区町村別にみた出生率格差とその要因に関する分析」

               『フィナンシャル・レビュー』第131号(2017)

近藤恵介「集積の経済による成長戦略と出生率回復は相反するのか」

               RIETI(独立行政法人産業経済研究所)Special Report,

               最終覧日2022年1月10日)

津谷 典子「出生率と結婚の動向―少子化と未婚化はどこまで続くか―」

            『シリーズ日本の経済を考える』第77号(2018), 財務総合政策研究所,

               <https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2018_05.pdf>

前田健太郎『女性のいない民主主義」東京:岩波書店(2019)

宮本由紀,荒渡良「所得補助と非所得補助が出生率に与える効果の比較」

            「日本経済研究」第68号pp.70-87